鬼と書かないオニの話し

鬼と書かないオニの話し

鬼と書かないオニの話し

平和の景色

最初はアルバイトとして入った会社なんだが、気がつけば3年が過ぎていた。所長さんと事務さん、そして直接の上司にあたるタカツキさんはキレッキレで恐ろしくかっこ良い。今年の3月が過ぎたころに正社員にならないかと話があって、特に何になろうとも思っていなかったものだから二つ返事で了承し今に至る。4月に花見を兼ねて入所祝いがあって、5月にはパスポートをとらされ、6月から北米をあちこち回っている。タカツキさんはほとんど英会話ができないらしく、スマホの翻訳機能をフル活用して通訳といった立場でそろそろ夏。日差しが腕の皮をじりじりと焼いて痛い。

「お前って奴は、考えすぎるくらい考えたってことがないんだよなぁ。残念な奴だな。」

そんな失礼なことを平気で言うタカツキさんだが、実はすごく優しい。犬や猫を見るととたんに優しい顔になり、仕事をそっちのけでかまってしまってどうしようもない。捨て猫を見つけたときなどは泣きながら怒りだして、捨てたやつを探し出してボコボコにしてやると本気で言い出し、あわてて事務所に連絡したら事務さんがバイクで駆けつけてものすごく怒られていた。仕事人としてはどうなのかわからないところがあるけど、気持ちは同じだったのでとても共感したのを覚えている。

そんなタカツキさんだが、疲れが溜まるとときどき変なことを言う。日本には昔からオニと呼ばれる精霊みたいなのがいて…と、その話ははじまる。鬼と書くのは平安時代のころに、今の関東あたりから北海道にかけて存在していた部族の名前なんだそうで、その連中は本来は穏やかな人と書いて穏人、そういう意味のオニを奉っていたらしい。3年間ずっと同じ話を聞かされてきたのでもうすっかり覚えてしまった。たこ焼きのタコをほじくりながら、「なあ、オニってせつねえよな。」とか言い出されるとこの人疲れてるのかなって心配になるくらいだ。

たぶん、現アイヌの人たちがかつて東北地方一帯に築いていた文明のことを言っているんだろう。天皇万歳な当時の国家がヤマトタケルと呼ばれる防人の先兵達によって制圧した際に、音にそのまま当て字をして鬼になったんだとそんなことを言っているらしい。だから本来のオニである穏人はとっても穏やかで平和的なものなんだと。しまいには、自分がその穏人のひとりで、今の世の中にはびこっている争いの種を根こそぎ無くしたいと思っているんだとか言い出す。…40代くらいに見えるけど、タカツキさんはとっても中二病的でとにかく共感ができて楽しい。

投稿日: 2018年9月8日Danna

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